辞典で暇つぶし

辞典と図鑑が大好きです。

〔生物の方言名〕

私は生物の方言名を調べる趣味がある。ここでわざわざ“趣味”と書いたのは“お遊びレベル”だからである。

会話の中でふと耳にした不思議な言葉や表現をよくメモに残す。会話の相手は父母(故人)や親戚であったり、友人であったり、たまたま出会った漁師さんであったり、場面は様々。

あくまでも“お遊び”であるから、(今風に表現すると)“ガチな”研究ではない事をまず最初にお断りしておく。では私個人が思う“ガチ”とはどんなものを言うのか?

セミの自然誌』
中尾舜一著/中公新書/1990
によれば、かつて『昆虫界』という機関誌があり、これに『蟬の種別的方言集』(高島春雄/1937)としてまとめられたものがあるそうだ。
アブラゼミの方言名 157語
ハルゼミの方言名 31語
ニイニイゼミの方言名 108語
クマゼミの方言名 110語
ヒグラシの方言名 52語
エゾゼミの方言名 17語
ツクツクボウシの方言名 115語
という呆れるほど多くの方言名が収録されているのだという。このような研究であれば“ガチ”と呼んで差し支えないだろう。

『さかな異名抄』
内田恵太郎著/朝日文庫/1987
に収録されているのは、102科329種の魚類。
和名、異名、外国名3,367語。
文献からの引用に加えて筆者独自のデータ、巻末に索引も完備。小冊子であるという制約で割愛したものが多いとまえがきで述べているが、割愛してこの数は正に“ガチ”である。

方言名が多い事で知られるヒガンバナの日本各地での方言名を1,000以上集めた、熊本国府高等学校PC同好会による
ヒガンバナの別名』
http://www.kumamotokokufuh.ed.jp/kumamoto/sizen/hign_namek.html
なども“ガチ”だ。植物たった一種に1,000以上の異名・方言名があるという事実に驚愕。

前回の投稿(2022.02.17.)の中で取り上げた
『きのこの語源・方言事典』
奥沢康正 奥沢正紀著/平凡社/1998
も“ガチ”なピンポイント事典。
参考文献リストに『倭名類聚抄』『日萄辞書』『和漢三才図會』等々がズラリ!日本史や古典の勉強をやり直ししなければならない程に方言の奥深さを感じる次第。

少しだけ“ガチな研究”の例を挙げてみたが、私個人がやっているような“お遊び”であっても先駆者たちの事典・辞典類に採録されていない語彙がまだまだ現れるという方言収集の奥深さと困難さを実感している。
標準語という得体の知れない言葉に置き換えられて、近い将来いずれ廃れて消えていく方言の数々は何らかの形で残しておくべきではないだろうか。

2022.02.18
2022.02.23(一部加筆)