辞典で暇つぶし

辞典と図鑑が大好きです。

〔広辞苑で遊ぶ〕vol.03

いつも通り、『広辞苑 第四版』を使用。

夏の夜の憂鬱、「蚊」の話題である。

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日常生活で使う日本語の中、「蚊」に関しては、良く知られた単語を頭の中で整理してみると私の場合では、
〔ヤブカ〕〔アカイエカ〕〔ハマダラカ〕
の3つである。

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まず〔ヤブカ〕を引くと、解説文の中に出てくるのは個別には[トウゴウヤブカ][キンイロヤブカ]の2種。どちらも小項目は無い(つまり種名個別には載っていない)。

アカイエカ〕は載っている。が、解説文からは〔イエカ〕という項目へは飛べない。つまり上位項目へは飛べないのだが〔イエカ〕という項目は実際に存在する。
で、〔イエカ〕を引くと解説文の中には[アカイエカ][コガタアカイエカ][チカイエカ]の3種。小項目として立項されているのは[アカイエカ]のみ。

〔ハマダラカ〕を引くと解説文中には[シナハマダラカ][ヤマトハマダラカ]の2種。どちらも小項目は立項されていない。が、解説文中にある分類学上のラテン語の属名[アノフェレス]がなんと小項目としてカタカナで単独で立項されている!現実的な話だがこのラテン名での立項が辞典(広辞苑)に必要か?

この〔ハマダラカ〕の項目で解説文中に〔マラリア〕と〔バンクロフト糸状虫〕の語が出てくる。どちらもハマダラカが媒介する病原だが〔バンクロフト糸状虫〕の項目では[イエカ][アカマダラカ]の2種の名前が挙げられている。この[アカマダラカ]って何だろう?と引いてみると、[アカイエカ]の別名!だったら最初から標準和名で[アカイエカ]って書いておいてくれ。何故標準和名じゃない方を解説文に採用したのか?

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広辞苑』に対する“国語的”見地からの解説や批評はよく見かけるが、“昆虫オタク的”見地からの批評として書いてみた。編集者もまさか昆虫オタクが辞典の批評を書くとは思ってもいなかっただろう。

辞典が好きだからこその批評である。最新版の『広辞苑』ではどうなっているのだろうか?願わくば進化していてほしい。

2022.03.07
2022.03.11(加筆)

〔昆虫の名前の中のカタカナ〕

昆虫図鑑を眺めていると、ダビドサナエの〔ダビド〕、ラミーカミキリの〔ラミー〕、ベダリアテントウの〔ベダリア〕、ガロアムシの〔ガロア〕等々、「何だろう、この名前は?」という不思議なカタカナ語に出会う。

図鑑にもよるが、その由来が記されていない場合が多い。標準和名として図鑑に掲載されているにもかかわらず、解説が一切無いという不親切さである。人によっては全く気にしないのかもしれないが、私は気になって仕方がない。そのカタカナの意味を知りたい、の一点だけだが、記載が無い。こうなると、自力で調べるしかない。

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トンボ類の標準和名の中には、冒頭の〔ダビドサナエ〕以外にも〔マルタンヤンマ〕〔ミルンヤンマ〕〔リスアカネ〕〔モートンイトトンボ〕の計5種にカタカナ(人名)が入っている。

これらの人名は“種”として記載された当時の動物・植物学者や採集家の名前で、もはや“博物学”の領域である。

ちなみに、
ガロアムシ〕のガロアも人名。
ラミーカミキリ〕のラミーは残念ながら植物名で人名ではない。このカミキリムシ自体は外来種である。
〔ベダリアテントウ〕のベダリアは学名由来であるのは確かだが、その学名自体は語源不明。海外から“生物農薬”として導入された種である。
同じくテントウムシ科の
〔ムーアシロボシテントウ〕のムーアは人名。

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考えてみれば、考古学分野の〔ナウマンゾウ〕やカエルの一種〔シュレーゲルアオガエル〕、ハエトリグモの一種〔アダンソンハエトリ〕等々、カタカナの人名を冠した日本語の生物名は枚挙に暇(いとま)がない。

これらの人名を一つ一つ調べてみるのも辞典好きには良い暇つぶしになる。

2022.03.07
2022.03.11(加筆)

〔広辞苑で遊ぶ〕vol.02

前回と同じく、紙媒体の『広辞苑 第四版』を使う。

〔ホタル〕を引いてみる。
解説文の中に出てくるのは[ゲンジボタル][ヘイケボタル][ヒメボタル]の3種。

各々の種を引いてみると、[ゲンジボタル][ヘイケボタル]の項目はあるが、[ヒメボタル]という項目は載っていない。

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同じ事を〔アゲハ〕でやってみる。
[アゲハ]の項目の解説文の中に出てくるのは[アゲハチョウ科][ナミアゲハ]の2つの語。

*[アゲハモドキ](蛾)の解説文の中に[クロアゲハ]が出てくるがこちらは[アゲハ]の項目ではなく枝項目。

[アゲハ]の項目中、種としては1種だけ。
ところが、試しに引いてみると、アゲハチョウ科の昆虫は[クロアゲハ][カラスアゲハ][キアゲハ][アオスジアゲハ][ミカドアゲハ][ジャコウアゲハ][ギフチョウ]が小項目として載っている。更に[ギフチョウ]の項目の解説文中に[ヒメギフチョウ]までが載っているではないか。

[アゲハ]という大きい項目から各々の種という小項目へと飛べる設計(つまりクロスレビュー)になっていないのだ。せっかく立項してあるというのに実にもったいない。百科事典的要素を謳ってあっても、これが紙媒体の辞典の限界なのだろうか……?

*第五版以降の紙の『広辞苑』ではどうなのだろうか。残念ながら手元に無いので確認する事は出来ない。

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[トンボ]や[セミ]でやってみたらどんな結果になるだろう?後々の楽しみにしておく。

2022.03.04
2022.03.09(加筆)

〔辞典を題材にした本〕

辞典を題材にした本。
手元にあるものをいくつか紹介しよう。

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『国語辞典の遊び方』
サンキュータツオ著/角川文庫/2016

巻末の解説には、辞書編纂を描いて本屋大賞を受賞した『舟を編む』の三浦しをん氏。

国語辞典限定ではあるものの、様々な辞典の個性を面白おかしく、そして鋭く指摘。辞典にキャラクターを設定するマニアックさ。

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『辞典事典字典ベスト255ガイド』
佐野眞著/講談社+α文庫/1997

「辞典」と「百科事典」の違い(使い方)を端的に示し改めて考えさせられた、山本夏彦氏と加藤周一氏のエピソードは興味深い。

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藤子不二雄Ⓐ&西原理恵子の人生ことわざ面白漫辞典』
藤子不二雄Ⓐ・西原理恵子共著/小学館/2018

長いタイトルだが(笑)どこで区切るのか不明なのでフルで載せる。解説はしない。読めば「あー、こんな感じなのね。」という面白い本。

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『困ったときのベタ辞典』
アコナイトレコード編/ダイワ文庫/2010
『新・四字熟語』
又吉直樹 文・田中象雨 字/幻冬舎よしもと文庫/2015

イージーに読む辞典。これらの本も、もはや解説など必要無い(というより不粋)と思われる。読めば解る、とだけ言っておこう。

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2022.03.09

〔変な辞典〕

世の中の辞典には“読むための辞典”という分野が存在する。

悪魔の辞典
A.ビアス著/角川文庫/1975
元は週刊誌記事(1881~1906)であるらしいが、多大なる影響力があったようで、
『噴飯 悪魔の辞典
安野光雅・なだいなだ・日高敏隆別役実横田順彌著/平凡社/1986
『ビジネス版 悪魔の辞典
田英夫著/日本経済新聞出版社/2016
などは本のタイトルまで影響を受けている。

『欠陥大百科』
筒井康隆著/河出書房新社/1970
『乱調文学大辞典』
筒井康隆著/講談社/1972
は作家が書いた辞典。どの項目から読んでも大丈夫、元々が読むための辞典だから。

『新釈・からだ事典』
渡辺淳一著/集英社文庫/1994
『新釈・びょうき事典』
渡辺淳一著/集英社文庫/1999
も作家が書いた事典。“辞典”ではなくて“事典”だが、著者は医学博士でもあるから端的な表現で身体(人体)の不思議を書いている。専門書を読まずとも解り易いので『失楽園』のファンならお薦め。ちなみに私は不倫を容認しないタイプだが本(事典)は良いと思う。
『聞きのがせない医者語・ナース語』
米山公啓著/徳間文庫/1998
は病院の内情の一端を覗いた気分になる辞典。巻末に索引まで完備。

『雑学七ヵ国語辞典』
日商岩井広報室トレードピア編/文春文庫/1986
『フランスことば事典』
松原秀一著/講談社学術文庫/1996
『13ヵ国いうたらあかんディクショナリィ』
開高健[企画]/講談社+α文庫/1997
この3冊辺りも“読むための辞典”と言えるのではないだろうか。雑学を鍛え上げて磨き上げれば学問に近いレベルまで到達できると思わせてくれる辞典である。

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しかし、書店で買ってはみたものの、どう使うのか、いつ使うのかが今一つ解りにくい辞典というものが手元に存在する。

『地獄の辞典』
コラン・ド・プランシー著/講談社/1990
『新訂 クトゥルー神話事典』
東雅夫著/学研M文庫/2001
『世界の神々の事典』
松村一男監修/学研/2004
ペラペラとめくってみたけれど、いつ、どう使うのだろうか?本の内容が悪いと言いたいのではなく、私の日常生活には必要無いかも?と考えた。私の職業が作家であれば間違いなく面白いと思われる辞典。

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これまでかなりの数の蔵書(辞典・事典・図鑑)を紹介してきたが、本棚にはまだ紹介できていない本が数多く眠っている。また、お金とスペースの余裕があれば購入したい本が100~200冊くらいある(クソ高い本も多い)。なにしろ、夢は私設図書館開設。

10年後?20年後?いつになるやら。

2022.03.03

〔Gの方言名〕

台所の嫌われ者、G。
ネット上では、名前を文字にするのも嫌!という人々から通称“G”と呼ばれている。
私は千葉県民だが、子供時代には両親が「へーはち」と呼んでいたのを記憶している。子供時代に見た昆虫図鑑に別名「あぶらむし【油虫】」と載っていた事も記憶にある。

10数年前、国語辞典の類(PC用のCD-ROM辞典を含む)で検索してメモしておいた名称と、かつて読んだ何冊かの本からのメモを本棚で発見したので、ネット上から拾い上げた方言名(真偽はともかく)とを合わせて集めてみた。

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ゴキブリ【蜚蠊】
〔あくたむし〕全国(古語?)
〔あぶらむし〕全国
〔あま〕和歌山県(*)
〔あまべ〕瀬戸内海地域(*)
〔あまめ〕和歌山県(*)、三重県(*)、長崎県(*)、鹿児島県(*)、宮崎県(*)
〔きがねむし〕茨城県(*)
〔くーむや〕沖縄県宮古島(*)
〔くろじょう〕鹿児島県種子島(*)
〔けにた〕千葉県夷隅地方
〔ごっかぶい〕佐賀県(*)
〔ごっかぶり〕大阪府(*)
〔せーはち〕神奈川県三浦半島(*)
〔つのむし〕全国(古語?)
〔とーびーらー〕沖縄県(*)
〔とっく〕長崎県(*)
〔びーらー〕沖縄県(*)
〔へーはち〕三重県(*)、和歌山県(*)、千葉県南部
〔へは〕三重県(*)
〔ぼっかぶり〕山梨県(*)

(*)はネット上の情報であるため再検証が必要であるが、近年急速に方言が死語として消滅しつつあるため敢えて採録した。当然現在使われていない語や単純な間違いもあるかもしれないがそれも含め“敢えて”である。
なお、煩雑さを避けるためネット上の引用元は省略させて頂いた。

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〔せーはち〕〔へーはち〕に関しては〔せいはち〕〔へいはち〕として記述されている場合が多いようだが、語源が明確ではなく発音通りに近い形で敢えて〔ー〕を使用した。三重県の〔へは〕なども同系の言葉かもしれない。
黒潮の流路に沿って紀伊半島方面から神奈川県経由で千葉県への人間の移動があったのかもしれない、などと想像した。

茨城県の〔きがねむし〕は〔黄金虫〕からの訛りなのだろうか?などと想像した。童謡「黄金虫」が甲虫のコガネムシではなく実は「G」を意味しているという雑学ネタに信憑性を与えるものであろう。

〔ごっかぶい〕〔ごっかぶり〕〔ぼっかぶり〕も同系の言葉だろう。ゴキブリという現代では正式な名称にまで昇格した(笑)言葉の語源は、本来の【五器被り】【五器囓り】を誤植(脱字)でゴキブリとしてしまった生物学用語集があって全国的な言葉となっていった経緯によるが、それより以前の形のまま地域ごとに訛っていった事が容易に想像できる。なお、【五器】(蓋付きの椀)という漢字表記ではなく【御器】としている本もあるが江戸時代の百科事典『和漢三才図会』では【五器】であるらしい。

〔あま〕〔あまめ〕〔あまべ〕は系統は同じなのだろうが語源は不明。〔くろじょう〕〔けにた〕〔とっく〕に関しては語源が想像すら出来ない。特に〔けにた〕は私が所有する本からの引用だがざっくりとした検索ではネット上にも確認出来なかった。

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『日本方言大辞典』
全3巻/小学館/1989
日本国語大辞典
全14巻/小学館/2000~2002

今後、図書館にて各々の語をこれらの“言葉の集大成”と言える辞典で確認してみたい。が、人知れず“G”の方言名を黙々と調べる人が出没する図書館は何となく不気味かも……?


いやはや、Gの世界は深い。

2022.03.02

〔逆引き辞典を使う〕

日常生活の中でブルーベリー、ラズベリークランベリーなど、〔○○ベリー〕と付く植物名によく出会う。
カタカナ語が載っている辞典類を引くと綴りは〔berry〕である事はすぐに判る。
別の単語である〔very〕〔belly〕と混同しないためにもこの確認は大事。

そして、
プログレッシブ英語逆引き辞典〈コンパクト版〉』(小学館/2006)
で〔berry〕を引いてみる。むろん、語尾に〔berry〕が付く語を見つけるためだ。
すると、あっという間に100語近い○○ベリー類にたどり着く。食用とならないものや一部植物とは無関係な語も含まれている(→*1)にしても、植物名の語彙は格段にアップする。
また、例えばたどり着いた単語に〔blueberry〕があった場合には〔○○blueberry〕と付く語があるかもしれない(→*2)。そこから先は辞典ではなく植物・果樹・園芸の参考書の登場だ。

では次に〔apple〕を引いてみる。
当然〔○○apple〕が沢山出てくる。
こちらも植物名以外の多くの語彙に出会う事になる(→*3)が、英語圏でのappleのイメージが大まかに掴めてくる。

同じ要領で広く【草】を意味する〔weed〕、そして広く【樹木】を意味する〔wood〕を引いてみる。もちろん植物名がズラリと並んでいる。
慣れてきたら、例えば
〔wort〕〔oak〕〔elm〕〔elder〕
と植物名によく使われる語を次々と引いてみるのがこの逆引き辞典を使った語彙増強法。

昆虫であれば〔bug〕〔ant〕〔beetle〕〔fly〕〔butterfly〕〔moth〕など、哺乳類であれば〔cat〕〔dog〕〔wolf〕〔deer〕〔sheep〕など、甲殻類であれば〔crab〕〔shrimp〕など、魚類であれば〔fish〕〔eel〕〔shark〕など、貝類であれば〔clam〕〔shell〕、気持ち悪い細長い虫系であれば〔worm〕などといった具合に引いてみれば、単純な言葉から細かい種名へと語彙は大きく広がる。

この逆引き辞典は約34万語が収録されている『ランダムハウス英和大辞典 第2版』(小学館/1994)を資料として編纂されたものなので、各々を詳しく知りたい場合は元の大辞典を引くべきだが、ざっくりとした意味を知りたい場面では語彙増強効果は抜群だ。

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*1
dillberry
《米俗》尻の毛についた糞や紙.
dingleberry
《俗》動物の尻にぶら下がっている小さな糞などの塊.
oysterberry
《米俗》真珠.
razzberry
《話》屁.

などなど、少し品の無い語彙も含まれる。

*2
highbush blueberry
lowbush blueberry
rabbit-eye blueberry

ほーら、やっぱりブルーベリーにも色々な種類や品種がある。農業・園芸の専門書を見ればもっと詳しい情報が入手出来るかも……?

*3
alley apple
《米俗》石ころ;馬ぐそ;役立たず.
bad apple
《俗》うそつき;ろくでなし.
horse apple
《米俗》馬糞.
road apple
《俗》路上[道端]の馬糞.
sad apple
《米俗》嫌な奴;下劣な奴.
wise apple
《米俗》うぬぼれの強い男;愚か者.

いやはや、下品な言葉の数々。俗語として悪口・罵詈雑言にも使われるんだねえ。

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残念ながら私の手元には『ランダムハウス英和大辞典』は無いのだが、いずれ入手して元になった記述を読みたいものである。また、手元にある『英和大辞典』(研究社)との比較にも興味が湧いてきた。

2022.02.28